福岡県小郡市美鈴が丘の整形外科、リハビリテーション

医療法人オアシス 福岡志恩病院

ひじの痛み – よくご相談いただく症状

野球による肩・肘の障害:総論

 プロスポーツの日本での人気割合をご存じでしょうか?2017年データになりますが、1位:野球, 2位:サッカー, 3位:テニス, 以下、大相撲, カーレース, バスケットボール, ボクシングとなっています。多様化してきたとはいえ野球が最も人気があるのです。当院を受診されるスポーツ障害で圧倒的に多いのが野球による投球障害です。特に多い少年期の投球障害にフォーカスしてみます。

 投球障害の要因は ・オーバーユース(投げすぎ) ・コンディション不良・ 投球フォーム不良 が複合して起こります。
 小学生・中学生の子供はまだ骨端線(成長軟骨)があり(図1)、牽引・捻りに対して構造的に弱く大人と同様のトレーニングは障害の原因になります。この部位を傷めると成長障害や遺残変形が残るため検査にて異常がみられれば投球を完全に中止しなければいけません。

10歳
10歳
13歳
13歳
成人
成人

 投球技術は繰り返すことで上達していきますが、オーバーユースの問題があります。全力投球数 小学生:50球/日 200球/週、 中学生:70球/日 350球/週これ以上の投球数になると障害がおこるとされています。指導者・親がよく理解することが重要です。

少年期の身体特徴です。
 骨の成長に伴い筋肉・腱の緊張が高まります。筋・腱の付着部に障害がおきやすい状態です。四肢・体幹の柔軟性が極端に低下する原因もなります。投球動作は下半身からの連動で上半身を動かすため、下半身特に股関節周囲の筋力・柔軟性が必要です(図2)。
 また投球後は投球側の肩・肘周囲を中心に筋・腱が硬い状態になります(図3)。そこで柔軟性を高めるコンディショニングが必要となります。「肘が下がっている。」と投球フォームの欠点を指摘されることがありますが、肩周囲の筋などの硬さにより「肘が上げられない。」ことがほとんどなのです(図4)。

 当院では理学療法士により全身の柔軟性・筋力向上含めたコンディショニングを行い、セルフストレッチ指導(図5)でコンディション維持をさせます。コンディション改善と疼痛緩和が得られた段階でフォームチェックを行います。フォームが未熟であると再発することが多いため肩・肘に負担がかからないようなフォーム矯正を行うこともあります。

図2 下肢のコンディション不良例

膝伸展での挙上 75度以上 正常
膝伸展での挙上 75度以上 正常
踵と臀部距離 5cm未満 正常
踵と臀部距離 5cm未満 正常

図3 肩コンディション不良例

肩コンディション不良例

図4 肘が肩より高い→肩の最大外旋獲得

肘が肩より高い→肩の最大外旋獲得

図5 肩のセルフストレッチ方法

肩外側
肩外側
肩後方(スリーパーストレッチ)
肩後方(スリーパーストレッチ)

野球肘:上腕骨内上顆骨端線離開

 肘関節内側安定症の一つになります。骨の成長によって内側側副靭帯の損傷する部位が変わっていき、10-12歳は靭帯付着部の上腕骨内側上顆の裂離が起こり、13-14歳では靭帯付着部の骨端線離開が起きやすいと言われています。これらをリトルリーグエルボーと称し、少年野球選手の20%ほどに発生するとされています(図10)。重篤な後遺障害を残すことは少ないです。
 前述したコンディション&フォーム不良から起きるためリハビリでのコンディショニングとフォーム矯正で投球再開できます。

図10

上腕骨内上顆骨端線離開

野球肘:上腕骨小頭離断性骨軟骨炎

 少年期に起こる野球肘で頻度としては1~2%と言われています。肘外側の小頭部におこり、11-12歳が好発年齢とされています。初期はほぼ無症状のことが多く、症状が強くなったときにはかなり進行していることがあります。前述の骨端線離開とはちがい、重篤な後遺障害を残す可能性があるため早期発見が重要です。完全投球中止として1年近い経過で保存的に治癒してくるケースもありますが、進行期の場合は骨軟骨移植術を行う必要も出てきます(図11)。

図11 3-D CT : 離断性骨軟骨炎部位と遊離骨片 14歳 サウスポー

離断性骨軟骨炎部位と遊離骨片